爺の登山小史 No51
この年は、急に単独登攀に嵌り出した。三鈷北稜で味をしめたのか、3月11日には北壁の天狗沢を登って中の沢下降に成功。臆病者の俺が、孤立無援の状況に追い込まれると、結構クールに行動出来るのが嬉しかった。天狗沢は快適に登り、縦走路を剣ガ峰を越えて中の沢に向かう。最初は簡単で、前向きに下れる。F3、F2はスパッと切れ落ちて、元谷まで急峻な滑り台と化している。ダブルアックスにぶら下るように一歩一歩慎重に下る。2~30mで核心部は終わり一安心。アドレナリン出まくりのこの快感は、一種の脳内麻薬効果なんだろう。?
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春になって近郊の岩場に通い詰め、単独登攀のロープワークを磨いた。9月に大山、別山を登り、勢いに乗って9月29日、大屏風岩に単独で挑んだ。狙ったのはダイレクトカンテ。このルートは以前、崩壊の為、引き返した事があるが、また整備されたという噂を聞いていた。その日は元谷のアプローチの段階でビビッていた。途中、何度引き返そうと考えた事か。決断のつかないまま取り付きに来てしまった。9mmロープをダブルに結び、登攀開始。登りだすと全ての雑念は消えて、落ち着いて行動できる。2P目は左上トラバースだ。ロープをシングルにして、末端をリュックに結び残置支点に固定。2~3箇所嫌らしい部分もあったが、気持ちはしんと静まり返っていた。30mでザッテルに着く。ピトンを打ってロープを固定し下降。再びユマーリングで登り返す。3P目は以前よりもっと崩壊が進んでいた。ルート整備の話は嘘だったのだ。板状の岩盤が壁にもたれ掛かっているだけの所を、その岩盤に掴まって登らないといけない。途中ピトンを打つが全く効いていない。10m余りでギブアップとなった。しかしクライムダウンが出来るようなルートじゃない。懸垂下降の支点を作ろうとするが、ピトンは手で押し込める状態。ジャンピングでボルト穴を開けると、錐が薄い岩盤を貫通してしまう。この時は恐怖心に全身が固くなった。結局、6本のボルトとピトンに均等に荷重が掛かるようにスリングを調整して祈りながら、ロープに全体重を預けた。岩盤ごと転落するんじゃないかと静かに静かに下降。支点は何とか持ってくれ、後2回の懸垂で取り付きに戻った。
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上)ザッテルより港ルート方面。中)2ピッチ目テラス。下)登攀中に。
 目論みは失敗だったが、再び幼い2人の子供に会えると思うと、嬉しさと共に俺は何て馬鹿をやってるんだろうと、反省しきりだった。が、帰って二日もすると、そんな事はケロリと忘れて、今度は日本最大の岩壁と言われる、黒部の奥鐘山西壁単独登攀の計画に余念が無かった。
by kikunobu111 | 2009-02-12 11:52 | ・爺の登山小史
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