爺の登山小史 No34
そして又、春が来た。大山、北壁大ガレ下部に烏帽子岩という40m程の岩塔があり、ツルツルの東壁にボルト梯子のラインが一本あったが、俺は北側のクラックに目をつけた。全てフリーで行けるラインだし、登行距離も一番長く取れる。トライして見ると、予想どうり素晴らしい登攀内容だ。岩は大山には珍しく、カチカチで、まだ見ぬヨーロッパアルプスもこんなのかな?オポジションなどクラック登攀の技術を多用し、岩の形状に導かれる自然なラインで頂点に立った時は、これこそ岩登りだ!と感動した。(現在も岩は変わらずそこに立っている筈だ。ブッシュが伸びてるかも知れないが、整備すれば楽しめると思う。興味のある方はトライして下さい。)たかが40mではあるが。
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(大山北壁、瀧澤下部で。霧の登攀)
そして夏はYM君と2人で穂高、屏風岩、緑ルートに向かった。入山日から雨で、テントも無く小屋代も足りない我々は、横尾の岩小屋暮らしとなった。(横尾の吊り橋を渡って少し先にあり、現在土砂に埋もれているが、当時は数人が泊まれる岩穴だった。)穴の中に座って、通り過ぎる登山者や、雨に煙る屏風岩を眺めて過ごした。夕方、滝谷で滑落死した遺体が穴の前を担ぎ降ろされて行った。三日目そろそろ忍耐心が切れる頃、雨が止んだ。しかし空はドンヨリと曇り、岩はびしょ濡れだ。夜明け前、取り付きに。スリップしない様に慎重に攀じる。3ピッチでT4。T4から2ピッチで大テラス着。今日は陽が当たらないので快適だ。頭上には目指す青白ハングが覆いかぶさってくる。赤っぽい花崗岩の岩壁をA1で左上して行くピッチは口笛が出るほど楽しい。次のピッチはハーケンの効きが悪い。次第に体が岩から離れて行く。アブミからアブミへと空中サーカス的なクライムが続く。
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(山渓より)
2人でツルベ式で登るが、トップ交代が大変だった。確保者の背中にしがみついて、肩車の体勢になりスタートしなければならない。登りながら下を見ても、確保者の姿は見えず、空間が5~600m下の1ルンゼまで広がっているだけ。雨が降ってきたが、雨粒は我々の遥か後ろを落ちていく。幾つも幾つもハングを越えて、やっと上部の垂直壁に出ると突然ザーザー降りの雨に打たれる。9時間かかった。後、木登り2ピッチでロープを解く。2年前の雲稜ルートの時より疲労は少ない。激しい風雨の中を唐沢ヒュッテに向かった。(このルートは当時の国内最難ルートの一つで6級とか表現されていたが、実感としては気持ちの良いルートだった。)
by kikunobu111 | 2008-08-08 10:21 | ・爺の登山小史
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