爺の登山小史 No13
1965年初冬の八ヶ岳、赤岳沢に行った時の話だ。何も無い荒涼とした風景の小海線、清里駅で降りる。沢に入ると雪渓がタップリ残って、二人パーテイは順調に滝を一つ一つ越えて行った。最期の難しい滝の下でアンザイレンし、俺がトップで登り、雪渓の中から突き出ていた大木にセルフビレイを取って、肩がらみで後続を確保した。彼は後2mという所でスリップし、宙に浮いた。緊張してロープを握り締める。肩がらみでは、上体が引き込まれるが、セルフビレイがしっかりしてるから、安心と思ったら、ロープを結んでいた大木は、単に雪渓に埋まっていただけで、生きた木じゃなかった。俺の体もパートナーと一緒に空中に浮かんでた。勿論、セルフビレイの倒木も道ずれに。
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気がついたら滝下の急な雪渓のクレバスに楔を打ち込んだ様に頭から刺さっていた。パートナーは足から刺さってたので、すぐ脱出し、俺の脚を引っ張るが抜けない。リュックの負い紐を切ってやっと脱出した。10m位落ちたのに二人とも怪我も無く一安心。しかし上手くクレバスに嵌らなかったら、急な雪渓を滑り落ちて、次の滝へダイビングしてただろう。夕闇が迫り、稜線は遠い。草付き斜面の座布団位のテラスに並んで腰掛け、体を付近の木に固定して夜を迎えた。夜中の寒さは尋常で無く、5分置きに時計を見ながら朝を待った。翌朝、コッヘルの水がガチガチに凍って、正面に真っ白い富士山を眺めながら最期の登りにかかる。
by kikunobu111 | 2007-12-31 11:01 | ・爺の登山小史
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